食べる憂鬱

ヨーロッパの街

 

雨で濡れた石畳に夜の灯りが落ちている。

 

そこに二人のお婆さんが住んでいる。

 

私はなにか寒天で固められたような白い固形物を持っている。

 

「細かく刻んで食べてはいけない」

 

昔からお婆さん達に言われてきたことだ。

 

決して食べてはいけない。

 

そして、また警告される。

 

「その手にもっているものをたべてはいけない」

 

「食べたら、どうなるの?教えてくれないと、気になるあまりに食べてしまう」

 

そう私が言うと、お婆さんは何も言わず私の手からそれを取り

 

包丁で細かく刻んだ。

 

 

「食べてごらん」

 

言われるがままに、ひとつ摘んで口にした。

 

何も起こらない。

 

もうひとつ食べてみる。

 

心の底からため息が出た。

無意識だった。

 

「これを食べるとどんなに元気な人も絶望してしまうんだよ」

 

強制的に絶望がこみ上げる感覚は異様だった。

 

こんなに小さなものが。という感覚。

 

「都会の者はそれを主食にしている」

 

そう呟くお婆さんの視線の先には海際の断崖ぎりぎりまで

築かれた都市があった。

 

こちらの街と海で隔てられた向こう側には高層ビルが間隙なく聳え立ち

人工の灯りが夜の闇を煌煌と跳ね返している。

 

少し霧がかった都市は今にも不気味な鳴き声を発しそうだった。

 

「お前はどちらを選ぶ?」

「便利だが、少しずつ自分に毒を盛るものか、この村のように生きるか」

 

そう問われながら、答えに詰まる。

 

そうして、今となっては疑問に思う。

 

その白い食べ物は「杏仁豆腐」という名前で

この村ではよく食べられている事を。